2022年4月18日、シンガポールの金融庁であるMASより、ファミリーオフィスに関する要件改訂が発表されました。コロナ禍も収束に向かい各国間での移動制限が廃止される中、日本における将来の増税を見据え、日本の富裕層の間でシンガポール等のタックスヘイブン国への資産の移転ないしは移住するような動きが強まっています。
一方、シンガポールにおけるビザ取得は容易ではなく、年々取得のハードルは上がっていると言えます。
現在、シンガポールにおいてビザを取得する方法は以下の二つです。
- シンガポールにおいて、自ら事業を立ち上げ、その会社から自身にビザを発行する方法
- シンガポールにおいて、ファミリーオフィスを立ち上げて、ビザを発行する方法
今回の改正で注目されたのは、2のファミリーオフィスの要件です。
今回、シンガポール所得税法(Income Tax Act 1947)13条O(従前の13条R)及び13条U(従前の13条X)に規定された、シンガポールに籍をおくファミリーオフィスを対象とした税制優遇スキームの要件改訂に関する新ガイドラインに関する告知が発出されております。
主な改正点は以下です。
- 預入資産の最低額(Minimum Asset under Management)
これまで、13条O税制優遇スキーム(いわゆるs13Oスキーム)はファンドの資産規模に関する最低基準を規定していませんでしたが、今回の改正により、ファンドの資産規模は申請時点で最低10百万SGDとなっており、2年間の猶予期間中に対象資産を20百万SGDまで増加することが必要になりました。13条U税制優遇スキーム(s13Uスキーム)に関しては、ファンドの資産規模は変わらず、申請時点で50百万SGDのままです。
資産規模が明示されたことにより、申請の可否については明確になりましたが、逆にファミリーオフィス設立のハードルはあがったともいえます。
- 投資専門職の雇用(Investment Professionals)
★s13O スキーム
現在、s13O スキームにおいて、対象となるファンドは、シンガポールにおけるファンドマネジメントカンパニー(FMC)に直接運用されるか助言を受けることが求められています。
2022年4月18日以降、s13O スキームの対象ファンドはシンガポールに籍を置くファミリーオフィスによって年間を通して直接運用されるか、助言を受け、なおかつ、そのファミリーオフィスは少なくとも2名の投資専門職(額3,500SGD以上を稼ぎ、かつ、対象となる職務に実質的に従事している者)を入れる必要があります(ただし、一部猶予条件があり)。★s13U スキーム
現在、s13U スキームにおいて、対象となるファンドは、2022年4月18日以降、シンガポールに籍を置くファミリーオフィスによって年間を通して直接運用されるか、助言を受け、なおかつ、そのファミリーオフィスは少なくとも3名の投資専門職を雇う必要があります。
なお、上記で言う投資専門職とは税務上のシンガポール居住者でなければならないことに留意する必要があります。 - 事業運営における支出(Business Spending)
s13Oスキームの対象ファンドは1会計年度あたり、費用として最低20万SGDの支出が必要となり、s13Uスキームの対象ファンドは、1会計年度あたり最低50万SGDのシンガポール国内の事業運営における支出が必要となりました。この事業運営に関する支出として、対象となる例としては、支払報酬、管理運営費用、税務アドバイザー等費用、運営費用といったものなどです。 - シンガポール国内投資(Local Investment)
ファンドは改正後、ファンドの資産規模の最低10%か10百万SGDのいずれか低い額を、いかなる時点においても、シンガポール国内に投資する必要があります。MASはシンガポール国内での投資の対象となりうるものとして、以下を挙げています。
1. シンガポールで認可済み取引所における上場株式
2. 適格債券
3. シンガポールにおける認可・登録ファンドマネージャーが提供するファンド
4. シンガポールで設立され同国で運営するスタートアップ等の非上場企業に対する非上場投資
なお、上記改正については、改正が入ったばかりということもあり、まだまだ実務的な細かい点については判然としない点も多くあります。今後、この改正が浸透するにつれて、明確になってくる点も多くでてくるだろうと思われます。当法人は今後もシンガポールにおけるファミリーオフィスの情報についてキャッチアップして情報発信していく予定です。